【完】こちら王宮学園ロイヤル部
……めずらしい。
夕帆先輩に「うそ。まじで?」と驚かれたが、実は彼はスキンシップの割に一緒に寝ることをあまり好まない。
お互いに受験だなんだと忙しかったから寝室が別だったことに何も違和感はなかったけれど、それが落ち着いてようやく、一緒に寝るのが嫌いなんだと知った。
たぶん、自分が夜中に眠れなくて起きることも考えた上での行動なんだろうけど。
「……うん。
なら、はやくお風呂済ませてくるね」
「ああ。仕事しながら待ってる」
「程々にしてよ……?」
言いつつ、ドライヤーを回収。
着替えを持ってお風呂に入り、浴槽のお湯の中に顎先まで浸かって、「ふぅ」と小さく息を漏らす。
実は夕帆先輩にすら、言えないことがある。
「……そんな素振り、ないけど」
付き合ったのが11月で、いまは3月。
もう4ヶ月付き合っているのに。……実はまだ、キス以上のことを求められてない。
そういう機会がないなら、まだしも。
なんだかんだ言って、彼と寝る機会を増やしてみたり、さりげなくスキンシップの多い日はあった。
でもなぜか一向にそういう雰囲気にならない。
……わたしがだめなのか、それともいつみ先輩に考えがあるからなのか。
「……不安、」
ぽつり。
漏れた言葉がシンと浴室内に反響して消えていく様が、自分の胸に同じように侵食していくみたいだった。
残念ながら。
浴室と違って、消えてはくれないけど。