【完】こちら王宮学園ロイヤル部
……ああ、そういえば。
別荘に行った時から、悩みが変わってない。
もうあの時と違って、好きと言い合える関係になったのに。
何のためらいもなく触れ合える関係になったのに。
わたしたちの時間は、何も進んでない。
「……? どうしたの?」
先に歯磨きを済ませて。
鏡の前に立ってドライヤーで髪を乾かしていたら、とつぜん歩み寄ってきたいつみ先輩。
何か忘れていたのかと鏡越しの彼を見ていたら、ひょいとドライヤーを奪い取られて。
何を思ったのかわたしの髪を乾かし始める彼を、一瞬ぽかんとしながら見つめてしまった。
……え?
何かと思えばわたしの髪乾かしに来たの?
「いつみ先輩……?」
あっという間に乾く自分の髪を乾かすのも面倒でサボるくせに?
口うるさく言ってもだめだったからわたしが乾かしてあげてるのに?
そんな彼がわたしの髪を乾かしてるだなんて、一体全体どういう風の吹き回し?
「熱かったら言えよ」
「うん……、」
うん、じゃなくてしっかりしてわたし。
……でもちょっと楽しそうだし。優しい手つきで乾かしてくれるの、ちょっとうれしいし。
やってくれるなら任せようかな、と。
しばらく鏡越しのいつみ先輩を見つめることに専念していれば。カチ、とドライヤーのスイッチが落とされる音とともに、温風が止まった。