【完】こちら王宮学園ロイヤル部



そうねと中に入って長い廊下を歩き、リビングの扉を開く。

椛の甘ったるい「おかえり」の声に返事するよりも早く、「いつみ先輩」とコーヒーを飲む彼に話しかけた。



どう考えてもパソコンと向き合って仕事中。

いつもなら話しかけるのを憚られるタイミングではあるけれど、それよりも問題は重大だ。



「……どうした?」



「あの……すごく申し訳ないんです、けど」



「……?」



「どこかで……

ここのカード、落としたみたいで」



言った途端に、彼は目を細める。

あ、これは怒られる……、と。覚悟していれば落とされたのは深いため息で、彼は「そこ座ってろ」と隣の席を指さすと、スマホを取り出す。




おとなしく隣に座れば、先輩はスマホを耳に当てて、「ルア」と、この場にいない男の子の名前を口にした。

2週間経つ今も、顔を合わせていない、唯一のメンバー。──ルノくんの、双子の弟。



「セキュリティのレベル、引き上げろ。

あと、全部のカードの情報こっちに送ってくれ」



電話の向こうから、薄らと声が聞こえてくる。

そう、か。カードを落とせばここに入れるようになってしまうから、セキュリティを引き上げる必要があるわけで。



「……すみません」



電話が終わったあとに彼に謝罪すると、いつみ先輩はわたしの頭を撫でた。

「どこで落としたのかわかるか?」と言われて、首を横に振る。



「落とした、っつーか、

その財布どうやったってカード落とさねーだろ」



莉央がそう言うからほかのメンバーにも「ここに入れてて」と財布を見せたけれど、落ちるわけがないと言われてしまった。

落としたわけじゃないとすれば、自ら抜いた、以外ありえないわけなんだけど。



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