【完】こちら王宮学園ロイヤル部



「基本的に抜いてないですし……

今日財布を開けたのもさっきが初めてなので、」



「……掏(す)られたか」



そう言われて、ぱちぱちと目を瞬かせる。

掏られた、って、誰かに取られたってこと……?



「でも、昨日も今日も体育の授業はなくて……

そもそも体育のときは、前に言われた通りちゃんとロッカーの鍵、かけてます」



この学校には、芸能科がある。

だから万が一芸能科の生徒の私物が盗まれたりしてはいけない、と。体育で使用する更衣室には、男女ともにロッカーが鍵付きだ。



嫌がらせされたりしたら困るだろ、と。

いつみ先輩に言われてからは、鍵もちゃんとかけているし、当然その鍵は授業中ずっと肌身離さずに持っている。



それ以外の教室とC棟を移動する時はずっと自分で財布を持っているし、取られるタイミングなんてどこにもない。

財布全部ならまだしも、カードだけ掏られるなんて、まず出来るわけがない。




「南々瀬ちゃん、お昼どこで食べたの?」



「……バラ園、です」



「なら、そこで掏られたんじゃない?

あの場所なら女の子たくさんいるし、人の出入りも多いから誰かがそばを通っても気づかないでしょう?」



……わたしも、確かにそう思ったけれど。

それなら、おかしいことがある。まず、わたしとみさとは向かい合ってお昼を食べていたわけで。



「……わたし、自分の横にバッグ置いてたんです。

床でしたけど、誰かが触ったらさすがにわかりますよ。わたしが気がつかなくても、みさとが」



「誰かに話しかけられたりとか、何か起こったりしなかった?」



そう問われて、すこし前の記憶をさかのぼる。

わたしが話しかけられる、ことは、ないけれど。



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