一輪の花を君に。2nd
「まだ…透析をすると決まったわけじゃないんだ。


でも、今のままだと今後透析をする必要になるかもしれない。



だから、点滴と薬と食事療法でコントロールしていこうと思う。



美空、今すぐにでも入院をしてほしい。」








分かってる。






分かってるよ。







状態が悪化したら、入院をしないといけないことくらい、この診断名がついた時から分かってた。





安定しても、退院してもまた悪くなって入院することになる。





決して、完治することはない。





その方法は、移植しかない。





また、ここでコントロールしてこれ以上悪くならないように治療して退院してもいつ戻るかなんてたかが知れてる。





そういう繰り返しで、私の命は徐々に短くなっていくんじゃないか。





そう考えると、怖くてたまらなかった。







でも、そんなことは中森先生に言えなかった。







私は、俯きながら頷くことで精一杯だった。







今まで元気だったのに。






今日から高校生活が始まったばかりなのに…







「美空…」









中森先生は、ずっと俯いている私の顎を救い顔を上げさせたけど、私はそれを拒否した。








「美空、いいからこっち向いて。」








中森先生の優しく安心できる声が、私の顔を上げさせた。








「美空、我慢することなんてないんだよ。

今思ってること、感情を無理矢理自分の中に押し殺す必要なんてないんだよ。

少なくとも俺の前では、何も隠してほしくない。



美空の感情、思ったことをぶつけてきて。」








「えっ?」








「俺は、美空の全てを受け止める。



美空を俺が支えていく。




美空の全てを知りたいんだ。





そのために、美空が今思っていることを、俺に教えてくれないか?」








私は、思わず中森先生の背中に手を回した。







中森先生も、それに応えるかのように私を強く優しく抱きしめてくれた。





私の後頭部を中森先生は自分の胸に、押し当てた。







ようやく、私は心が落ち着いてきて、中森先生に頭を預けていたけど、ちゃんと話すために顔を離した。








「私は、いつこの不安から開放されるの。」








「美空は、何が一番不安に感じてる?」







「分からない…。



喘息の発作が起きた時は、苦しくて意識がなくなりそうになって死への恐怖があって、腎臓の検査結果が悪い時は、すぐ透析に思考が回って、七瀬先生の言葉が私の頭をよぎる。



『透析をしたら、5年後の生存率はたったの40%。』




私は、まだ生きたい。





中森先生や、施設の皆と会うまではいつ死んでもいいって、ずっと思ってた。





でも今は違う。





ずっとずっと、みんなと一緒にいたい。





中森先生のそばにもいたい。」







「美空…。




ちょっと抱くよ。」







そう言われ、私の返事を待つことなく私の体を持ち上げ、中森先生はベッドに座り、自分と向き合う形で私を膝の上に乗せた。







それから、私の身体を中森先生の身体に抱き寄せた。






「美空?


喘息の発作で苦しくなったり、検査結果が悪かったりすると、不安になったり怖くなったりする。




でも、美空は1人じゃないんだよ。




俺や、美空の同期の仲間が必ず美空の支えになる。





美空が苦しかったり、辛かったりしたら何度でも俺を頼って。




不安に感じることがあったら、俺が美空に寄り添う。





ずっとずっと、美空のそばにいるから。





根っこからの不安は、治療でしか取り除くことはできない。






原因から取り除かないと、美空の不安は完全に消えることはない。




でも、美空がまた不安に感じたりしたらいつでも話聞くよ。




自分の中に、無理矢理溜め込んだりしないでちゃんと外に出してね。」







私は、頷くことで精一杯だった。






涙が、言葉を詰まらせて声が出せなかった。
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