一輪の花を君に。2nd
ーside理人ー



それは、新しい家に引っ越してからの事だった。




俺は、美空の『兄』という人の電話を受けた。





たしか、美空は1人っ子だったって聞いたことがある。





兄弟はいないと。






ある、土曜日の昼間だった。






1本の電話が、家に入った。





たまたま、俺が出たからいいものの、もし美空が出ていたら…。




そう考えたら、ぞっとする。





中森先生の話を聞いてから、尚更言い出しにくくなってしまった。






やっと、生きることに強い思いが美空に出てきたのに。





今更、こんな現実を突きつけたくない。





その『兄』と名乗る人は、



『美空とは血は繋がっていない。』





『美空は、精子バンクの精子提供で体外受精された女の子』




俺は、この現実に俺でさえ何も考えられなくなった。





こんなこと、美空が知ったら…。






だから、俺は人生経験があって医療知識のある先生に、相談したかった。






美空に、何かあった時俺も対応できるように。





とにかく、もしこの現実が本当で、美空がそれを知ってしまったら、支えていけるように中森先生に相談してみた。






支えていくためには、知識がないと話にならない。





「それで、どうかした?」





先生に、温かいココアをよそってくれた。






「実は、先週の土曜日に美空の『兄』と名乗る人から、電話があったんです。」






「え?」





「それで…」





いざとなると、どこから説明していいか分からなくなってしまった。






「いいよ、ゆっくりで。」






「美空は、精子バンクから精子提供を受けたって。


それが、本当なのか分からないけど、もしかしたら父親が美空に対して暴力をふるっていた理由が、その事だとしたら許せなくて。



それが、例え過去であっても、美空にしたことは無しになんてできませんから。」







「美空が…。



理人君。


その人の電話番号って、電話に残ってるかな?」




「多分、残っていると思います。



施設からは週3でかかってきますけど、それは施設と出るので。



それ以外の人からかかったことはあまりないので、すぐに分かると思います。」





< 9 / 41 >

この作品をシェア

pagetop