シンデレラの魔法は解けない
「……ねぇ、藍ちゃん?」
不意に名前を呼ばれ、はっと我に返った。
いけない、すっかり妄想の世界に入ってしまっていた。
慌てて頷くものの、平さんはあたしを見て目を細めて笑った。
やっぱり穏やかで優しい笑みだった。
「藍ちゃん、疲れてるね。
今日はもう帰ろう」
「……え?」
「俺もやらなきゃいけない仕事があるし」
「そうなんですね……」
本当はもっと平さんと話がしたい。
平さんの笑顔に癒されたい。
そう思う一方、平さんにのめり込むのは危険だと野生本能が警告する。
もう、裏切られるのはごめんだから。
ここで平さんに本気で恋して裏切られたら、あたしはきっと立ち直れない。