悩ましきは猛進女の撃甘プロポーズ
そう言った後、両手を後ろ手に組み、唇を突き出し、クルリと背を向けると、斜め四十五度下を向き、石ころでも蹴飛ばすような仕草をする。
いつか何処かで見た……そうだ! 母と百合子が熱心に見ていたドラマ、主人公がそんな風に拗ねていたのを思い出す。
「あれっ? バックハグして『泣かせない、嫁にしてやる』って言わないんですか?」
肩越しに振り向き、神崎が言う。
やっぱり、あのドラマのワンシーンだったか……。
「――君ねぇ、ここを片付けて、早急に帰ってくれる?」
ここのところ多忙で寝不足だった僕は、一気に襲ってきた疲労に全身が脱力する。
「君島、ちょっと仮眠室で寝てくる」
幾日振りの睡魔だろう……。
「あっ、了解です! ごゆっくり」
元気の良い君島の返事は、更に僕を疲れさせる。
――が、その後の会話で、僕は唖然とし、同時にそこで記憶はプツリと途切れる。
「神崎さん、よかったですね。課長、ようやく寝てくれるみたいです」
「本当によかった。四徹って有り得ない!」
「でも、どうやって? 食事に睡眠薬でも入れました?」
「まさか。ランナーズハイ状態だから、そこをちょっと挫く行為をしたまでよ」
――まんまとその手に乗ってしまったわけだ……僕ともあろうものが……。