悩ましきは猛進女の撃甘プロポーズ
「私、こんな調子なのでスウィーツが作れなくて……って! 恭吾さん、どうなさったのですか、そのお顔の色!」
女が突然、僕のネクタイをグイッと引っ張る。
お辞儀するような体制になったところに、女の手が伸び、額に掌がペタッと添えられる。
「ちょっと、何ですか! 人の心配している場合じゃないですか!」
ん?
「恭吾さん、すごい熱じゃありませんか! いつからです」
熱?
「あっ、おい! 仕事が」という声も空しく、ズルズルと引っ張られ、会社の医務室に連れて行かれる。
「加藤先生! 大変です。熱です! 熱があるんです!」
女が叫びながら僕をベッドに押し倒す。
「なんじゃ、神崎君か。忙しない奴だな。風邪は治ったのか?」
帝入社以来、初の医務室訪問だ。
この白髭の爺さんが先生?
「それより、男を押し倒すなら、もう少し色っぽくせんか!」
「それは元気になったらやります! 私より、ダーリンです。診て下さい」
――元気になったら? 何をするつもりだ……何となく怖い!
「ほー、こいつが噂のダーリンか」と白髭爺さんが僕をマジッと見る。
「なかなかいい男ではないか」
ダーリンは聞かなかったことにして、この人いい人。初対面で、こんな風に言われたのは初めてだ。