悩ましきは猛進女の撃甘プロポーズ

驚いたことに熱は三十八度七分あった。

「お前さん、バカ?」

診察を終え、帰って仕事を続ける、と言う僕を、白髪の爺さんは一言でぶった切った。

「そうですよ、何を言っているのですか。これからまだまだ上がります。ご自宅に戻ってしっかり休んで下さい」

経験者は語る?
そう言うと、女はポケットから携帯を取り出し、電話を掛け始める。

「あっ、榊部長ですか、神崎です」

おいおい、嘘だろう! 仕事中だというのに、あの黒仏様にプライベートな電話をしているぞ。それも、友達のように……。

「君島君に、医務室まで鞄を届けさせて下さい」

そのうえ命令? ――夢? 幻?
いかん! 本当に熱が上がってきたような気がする。

「いい子を嫁にしたものだ」

更に、幻聴?
白髪の爺さん、貴方は何を言っているのだ!

「嫁ではありません。結婚する意志はありません」

熱に浮かされたように、そう言うと……。

「何を勿体無いことを言っているのだ。後悔先に立たずだぞ」

説教される。

「――悪いですが、放っておいて下さい。頭が痛くなってきました」

人間とは弱い生き物だ。熱がある、とハッキリ分かると、急に体調が悪くなる。
知らなければ遣り過ごしたものを……本当に余計なことをしてくれる。

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