悩ましきは猛進女の撃甘プロポーズ
エピローグ
あの箱を開けた日、僕は気付いた。
小さな女の子があの女だということに。
遥香は幼かったことと、悲しかったことで、そのことを記憶から除去してしまっていたようだ。完璧に忘れていた。
自宅のデスクに置かれた真っ白な縫いぐるみをソッと撫でる。
キューンと鳴く、そいつに向かって呟く。
「ゴマちゃん、君の元祖を取り戻した。いつか対面させてやるよ」
女の子がアメリカに行ってしまってから、彼女に似せて作った子アザラシ型ロボット。百合子に「投げ捨てる」と脅された僕の宝物だ。
あの日、あのホテルに行って良かった。
また、遥香に会えたのだから。
百合子には感謝だな。面と向かって言わないが。
そう言えば、桔梗と君島の付き合いを聞いて、怒り狂っていた。
真面目に婚活しているのに、どうして幸せが訪れないの! と。
百合子はまだ知らないのだろう。
恋とは……愛とは……それが何かということを。
甘味を本当に知らないといけないのは、百合子の方なのかもしれない。
そうだ、遥香に言って、スイーツ教室にでも誘ってもらおう。
きっと少しは甘味を覚えるだろう。