きっと今夜は雨・・・
 出張先から直接来たのだろうか。

 手には大きなカバンを持っている。

「・・・おつかれさまです。今出張の帰りですか?」

「そうです。これから報告をして、そのまま帰りますが」

 他の人が一緒にいるので、どうしても他人行儀な会話になってしまう。

 それでも不自然にならないように、会話をした。

 目的の階についた。

「それでは」

 そう言って、階に下りたつと、彼も一緒に下りていた。

 後ろでエレベーターの扉が閉まる。

「下りる階、間違えていませんか?」

「いいや。今は君に用があるから。はいこれ」

 手のひらに小さな袋が乗せられた。

「それじゃ、今晩連絡するから」

 そういうと彼は背を向けて、別のエレベーターの前へと立った。

 彼が乗り込んだのを見計らって、手のひらの袋を開けた。

 中には携帯用のキーホルダーが入っていた。

『お土産、買ってきてよね』

『わかったよ』

 一週間前に電話で話した言葉を思い出した。

「本気にして、買ってこなくてもよかったのに」

 迷う気持ちに追い討ちをかけないで欲しい。
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