インタビューはくちづけの後で
密着させていただきます。
「小柳さん。どうかな?」と新作のおもちゃが展示された会議室に呼び出され、
広報部の斉藤課長が私の顔を覗く。

ここ『レインボートイ』は老舗のおもちゃ会社。
初代の社長がヨーロッパから、木製のおもちゃ(積み木や子どもが押して遊ぶ車。プッシュトーイと呼ばれるもの)を輸入して販売したのをきっかけに、
ブロック、ミニカー、人形、ポケットゲーム、etc…今では、自社キャラクターアニメまで手がける
日本で有数の企業のひとつだ。


「社内報の特集記事の取材ですよね。」

「そう、アメリカで博士課程を終えて11月に副社長になる社長の長男の取材。
ちゃんと記事はチェックするから。」

「はあ。…新人の私でも大丈夫でしょうか?」

「うーん。みんな新商品の『ミーナちゃん。』の宣伝で手一杯なんだよ。わかってるよね。」

『ミーナちゃん』はレインボートイの主力商品の着せ替え人形だ。
女の子は小さい時、誰もがミーナちゃんで遊んだ記憶があるだろう。
私も、もちろんミーナちゃんの着せ替え人形で昔は遊んだ。


「…はい…」

「副社長になる東條 瑞希(とうじょう みずき)は最後の休暇を満喫中だけど、社にも顔を出す予定。
顔合わせや、引っ越しや、いろいろ準備もあるからね。
紹介するから…ああ、ミズキは俺の従兄弟ね。母親が姉妹ってヤツ。」

へえ。20代で課長さんって親族だからか…

「…いま、親族だから課長って思っただろ。」と斉藤さんがくすんと笑う。

「いっ、いえ、そんな事は…」

「顔に出過ぎ。取材は顔色を変えないのも大事。」

「すみません!」と慌てて頭を下げると、

「はいはい。とりあえず、そう言う事で…一応経歴の資料は用意した。」と課長は私にマル秘の資料を渡して、
「じゃ、」と手を振り部屋を出て行った。

フレンドリーな28歳。イケメン。細身で高身長。妻あり、をボンヤリ見送る。
カッコいいよね。課長って。
子犬っぽい顔だけど仕事は出来るみたいだし…



でも…マジですか…
初仕事がひとりで社内報の特集記事の取材って…

私はひとりで残された会議室の椅子に座ったままでファイルをめくってみる。



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