溺愛までノンストップ〜社長の包囲網から逃げられません〜
一瞬、恋に堕ちたように何も考えられなくて無意識に「はい」と答えた後、我にかえり首を振るも遅かった。
テーブルの上で2段のお重を広げられ、色とりどりの食材が入った御膳料理に目を奪われた。
「わぁー、美味しそう。いただきます」
箸を持ち真っ先に松坂牛のステーキ肉を選んだ。
んっ〜、美味しい。
あまりの美味しさに頬を綻ばせ、男の腕を何度も叩いた。
「そんなに美味いか?」
うん、うんと頷くと男は口を開けた。
なに?
「俺にも一口食べさせろ」
えー、私にくれたくせに…
唇を尖らせていたら催促のように
「いつまで口を開けさせているつもりだ。叩かれた頬が痛い。早く食べさせろ」
男の傍若無人ぶりに、ステーキ肉を口の中いっぱいに突っ込んでやった。
私のお肉が…
自分で男の口の中に肉を詰め込んだくせに、お重にステーキ肉が無くなった事にガッカリしている落胆ぶりが態度に出ていたのだろう…肉を食べ終えた男は、私の頭をポンと撫でた。
「ステーキ肉ぐらい、また食べさせてやる。今度はもっと美味い肉を食べさせてやるから、落ち込むな」
ステーキ肉が、この口に消えたかと思うと、まだ立ち直れない。
「ほら、この蟹クリームコロッケも美味しいぞ。ズワイガニだぞ」
私の手から箸を奪い、男は蟹クリームコロッケを私の口の前まで持ってきた。
「自分で食べるから…」
そう言うのに引かない男に負けて、口を開け半分ほど食べた。
美味しい…
こんな濃厚なクリームコロッケ食べた事ないよ…と感動中、目の前で男は半分残ったクリームコロッケを自分の口の中に入れた。
アッと思った時には、飲み込んだ後だった。
ア然としている私の唇を男は笑いながら親指の指先で拭き取り、その指をペロッと舐めた。
えっ?
「クリームがついてた」
瞼を何度も瞬きしても、脳内では同じ声がする。
うそ
ウソ…
嘘だ…
嘘だと言って…
恥ずかしすぎる。
顔を真っ赤にさせている私にお構いなしに男は、次は何を食べると聞いてくるが、思考が停止状態になった私には何も考えられなかった。
ただ、言われるまま口を開け半分食べると、残りの半分を男が食べるという行動を繰り返し、ほぼ食べ終えた男は、箸を置くと大きな欠伸をし、ゴロンと横になり私の膝の上に頭を置いた。
「眠い、30分したら起こせ」