溺愛までノンストップ〜社長の包囲網から逃げられません〜
企画課とリゾート開発課との打ち合わせが終わった。
緒方さんに頼まれたお茶だしの仕事は無事終了し、一安心しながら給湯室で湯のみを洗っていると、背後から両手が伸びてきてシンクに手をついてきたと同時に
耳元で囁くような声にドキッとして手が止まる。
「…お茶美味かった」
美味かったと言うほど何かした訳じゃない。
お湯を沸かし、お湯で湯のみを温めた後に急須にそのお湯を入れてしばらくって、湯のみにお茶を注いだだけだ。
受付業務の1つで、来客に今まで出していた通りにしただけなのに…それよりも、背後に立ちシンクと男の間に挟まれている状態をなんとかしてほしい。
「…わざわざ、耳元で言う事じゃないでしょう⁈離れてよ」
「いやだ」
いやだって…なんだ?
「湯のみが洗えません」
「気にしないで洗えよ」
ムカッ…こっちは気になるってーの。
もう、無視だ…
男に背後から囲まれたまま、湯のみを洗い布巾で拭き取り終えて棚に湯のみと急須を戻しても、まだ背後から立ち去らない。
「…なんなの?次の仕事があるでしょう?行けば?」
ケンカ腰で振り返った。
「麗美も一緒だ。会社には戻らないから着替えて来いよ。15分後下で待ってる」
そう言って、私の頬を撫で社長室に戻って行った。
撫でられた頬に残る男の感触がくすぐったい気がする。
さっきもそうだ。
30後に男を起こすと、色っぽい眼差しで私の膝の上から見つめてきたと思ったら、手が伸びてきて私の髪を一房掴み呟いたのだ。
「こんな目覚めもいいなぁ」
なんとも言えないくすぐったさに背筋が疼いたそのすぐ、企画課がドアをノックする音で甘ったるい雰囲気が消え、仕事モードに表情を変えた男にドキンとときめいたのは気がつかない事にした。
なのに…
どう言う事なのだろう?
奴隷だと言う癖に、そんな扱いをされない事に疑問を感じていた。
15分後、ロビーまで降りるとすでに男が待っていた。
やばい…
慌てて駆け寄ると
「そんな高い靴で走ったら危ない。捻挫でもしたらどうするつもりだ?」
心配そうな表情で、私の手を繋いだ。
突然の温もりに立ち止まる。
振り返った男がどうした?と見つめてくる。
「…て」
「麗美が転ばないように繋いでいてやる」
済ました表情の男の耳が真っ赤になっている姿に、胸の奥にズキューンと矢が刺さったように衝撃を受けた。