溺愛までノンストップ〜社長の包囲網から逃げられません〜
恋人のような独占欲に振り回されてます
移動する車中でも、繋いだ手は離してもらえない。
指をもぞもぞと動かしたり、手を引っ張ってみたりとなんらかの抵抗を試みたが、新聞を読んでる男は気がつかない振りを続けるので、諦めて外を眺める事で、手に感じる温もりをそらしていた。
しばらくして車が止まり、目的の場所に着いたのだと安堵したのも束の間、車から降りてみると高そうなブティックの前だった。
ここはホテルじゃないわよね⁈
疑問に思いながらも、繋がれた手のままお店の中に入ってしまった。
恋人じゃあるまいし、この手はやばいでしょう⁈
振り払うと直ぐに繋がれ直されて、ぎゅっと力が加わる。
「痛いって…離してよ」
「離す理由がない」
はぁっ?
「理由はあるでしょう⁈ここに来たのは仕事なんでしょう?女と手を繋いで仕事って、どこのバカ社長よ」
「フッ、バカ社長なんて俺に言うのはお前ぐらいだぞ」
楽しげに笑う男と会話が噛み合わない事に苛立って仕方なかった。
そこへ店員がやってきた。
「いらっしゃいませ…西園寺様」
「用意できてるか?」
「はい、緒方さんからご連絡頂き、ご用意して待っておりました」
「なら、手早く頼む」
「では、参りましょう」
店員の奥へ促す手に、男は動かないで私の背を押した。
えっ?えっ?
「早く行って来い」
訳のわからないまま店員の後について行くと、広いスペースに何着も並べられたスーツが掛けてあった。
それは、どう見ても女性物で私が見慣れたデパートに並ぶ既製品の安い物とは違う、高そうな生地で作られた衣服だ。
今だに理解できない私を放置したまま、店員は鏡の前に私を立たせて服の上からサイズを測る。
そして、私に見せるようにスーツを体に合わせて鏡を覗く。
その行為を何十回と繰り返し、彼女が納得した数点を並べた。
「サイズは合ってると思いますすが、試着されますか?」
「あの…私が試着するんですよね?」
何を言ってるんだ?
と、一瞬表情に出した後に笑顔で答えた。
「西園寺様からお嬢様の為に用意させて頂いた物です。お似合いの物を選ばせて頂きましたが、お気に召しませんか?」
「…いいえ」
選んでくれた物は、どれも素敵だと思った品だった。
「それでは、着て帰られると伺っていますので、おひとつ選んでください」