溺愛までノンストップ〜社長の包囲網から逃げられません〜
「お前に払わせるつもりはないから安心しろ」
「払わせるつもりはないって困る。着ているこれはなんとかして払うけど、残りは返品して」
「返品はしない。全部お前の為に買った物だ…奴隷に施しだと言えば満足するか?」
「バカにしないで…施しをもらうほど困っていないわ」
キッと隣に座る男を睨み、繋いでいた手を振り払う。
「素直に甘えてもらっておけ」
ここでも会話が噛み合わない。
「だから、いらないって言ってるの」
「社長秘書のサポートをするんだ。安物の服装では俺の権威に関わる。支給された仕事着だと思え」
そう言われては返す言葉がみつからない事に悔しくて、溢れ出そうな涙をグッと堪えた。
振り払ったはずの手を繋ぎ直され、その手の甲を優しくなだめるようにポンポンと叩く男。
「悪い、きつく言い過ぎた。麗美に俺の側で綺麗に着飾っていてほしい俺のワガママだ。そのスーツ似合っている」
頬が一気に熱くなる。
さっきまで悔しかったはずの心がドキドキとしだすと同時に、私の心を振り回す悪い男に警戒音が鳴る。
自分のペースを乱したりしたら、この男の思う壺なんだから油断したらダメよ。
心の中で何度も呪文のように呟いた。
「恋人でもないんだから名前呼びしないで…」
「…お前は俺のなんだ?」
一瞬だけ悲しそうな目をした気がしだが、勘違いだっと思えるほど憎たらしい表情で聞いてきた。
「…どれい?」
「なんだ、それ。疑問符をつけるな…」
つけたくもなる。
奴隷と言うには扱いが優しいと思うのだから…
苦笑いをした男は、私の頭部をわしゃわしゃと撫でた。
奴隷であってるんだよね?
見つめる私の視線に男は答えてくれなかった。
車が停車し、後部座席のドアが開く。
ドアマンが綺麗な姿勢で腰を曲げ出迎えてくれる。
「いらっしゃいませ。足元をお気をつけください」
後から降りる私に手を差し伸べ、車から降りる手助けをしてくれたのだ。
親切な接客に頬が緩んでいると、先に降りた男が不機嫌な態度でドアマンを一度だけ見てチッと舌打ちする。
大会社の社長が人前でする事じゃないでしょうと叫びたくなるが、舌打ちされたドアマンがイヤな顔もせずに笑顔で出迎えている姿にグッと我慢をした。
後で、注意しておきますから、許してくださいと心の中で手を合わせて
「ありがとうございます」
と、微笑み返した。