溺愛までノンストップ〜社長の包囲網から逃げられません〜
どうしてキスするんですか?
絡んできた男性に鋭い視線を向けていた。
「西園寺社長のお連れでしたか…私は、ただ話かけただけなので…」
たじろぐように後退りする男性は、真っ青な表情で男からの鋭い視線におびえていた。
「そうですか⁈それならばこれからはお気をつけください。彼女は僕の大事な女性ですから、何かされたと聞いた時は穏やかでいられないですよ」
突き放すような冷たい口調に、周りにいた人垣が一歩下がっていく。
「何もされていないから…大丈夫だから」
私なんかの為に、大事にしてほしくない。
「ほら、彼女もそう言っているじゃないか」
「麗美?」
男の袖を何度も引っ張った。
「私より、ぶつかった女性のお洋服の心配してあげて」
「そうだ。私は何もしていないからな」
男性は、そう言って人垣の向こうに逃げて言った。
苦々しい表情でその背を見つめた後、男に惚けている女性を見た。
「失礼、新調された方がよろしいですよ。下のブティックに名刺を渡して下さればこちらで支払います。代金は気にせずにお好きなお洋服をお買い上げください」
ニコッと笑っているが、目が怖い。
ウワッ、怒ってるよ。
「これでいいか?」
振り向き確認してくるが、そこまでしてあげてとは言ってない。
自分が返さないといけない彼女の洋服代がいくらになるのか心配で、意識が別のところに行っていた。
気がついたら行くぞという風に手を引っ張られ、タイミングよく来たエレベーターの中に乗り込んだところだった。
「勝手にウロウロするな」
腹立たしげにエレベーターの中奥に体をやられ、壁に背がぶつかると同時に、男が壁をドンと叩いた。
甘い雰囲気の壁ドンと違い、怒りを込めて叩いた壁の音に、恐怖で心臓がドキンドキンと速く鳴る。
「悪かったと思ってるわよ。あなたから離れたせいで余計な出費をさせてしまって、怒ってるんでしょう?」
「金なら困らないほど持ってる」
「だったら、怒らなくてもいいでしょう?」
「怒ってるってわかってるんだな⁈」
険しい表情で睨まれれば、そりゃ、怒ってるって思うわよ。
言葉にしない文句が出ていた。
「そんな服で隙を見せているからあんなゲスな男に話しかけられるんだ」
「そんな服って、着たくて着たわけじゃないから…似合ってるって言ったくせに…」
悔しくて下唇を噛んでいた。