溺愛までノンストップ〜社長の包囲網から逃げられません〜
「…この家が無くなるのね」
古びた家が嫌いだったけど、もう住めないと思うとたくさんの懐かしい思い出が脳裏を過ぎっていた。
「仕方ない。借金が返せるだけ良しとしようと思う。麗美に迷惑をかけたくないんだよ」
「迷惑だなんて…教えてくれていたら私だって…」
父は首を左右に振りながら、悲しげに笑う。
その横で母は涙ぐむのだった。
「麗美には麗美の人生がある。お前を犠牲にしてまで守りたい物じゃないから、いいんだ…これで」
「でも、住む所はどうするの?お金ないんでしょう?私、少しだったら貯金もあるし、そのお金でどこか探さないとね」
「そのお金は自分の為に使いなさい。お前と離れるのは悲しいがお父さんとお母さんの住む所なんて、どうにかなる。だからね、申し訳ないが、そのお金で一人暮らしをしなさい」
どうにかなるなんて…どこで暮らすつもりなの?
「3人で暮らせないの?ダメなら3人で暮らせる部屋を探そうよ。役所に申し込めば市営住宅に入れるかもしれないじゃない⁈」
「残念だが、早くて半年待ちだと言われたんだ」
「それなら一緒に…」
首を横に振る父。
「麗美もいずれ結婚して出ていくだろう…その日が早くなっただけだと思いなさい」
頑なに一緒に生活することを拒む父に、私に苦労をかけさせたくなのではと悟った。
「誰に借金していたの?教えてよ…バラバラに暮らすのに、私だけ何も知らないなんてイヤよ」
父と母は、顔を見合わせた後、しばらくして言いにくそに口を開いた。
「…麗美の会社の会長だった人だ。孫にあたる方が今回、借金の…」
「…わかったわ」
辻褄が合った瞬間、話を遮り、怒りでまだ何か話してる父の声が聞こえていなかった。
あの男のせいで、これから父と母が苦労させられるのかと思うと、自分が働く会社の社長だろうと文句を言ってやらないと気が済まない。翌日、朝一で乗り込んでやろうと決意していた。
私の勤める西園寺コーポレーションは、ホテル経営やリゾート開発を手広く扱っている。本社ビルの受付にいる私は、毎朝、あの男に何も知らないでときめいていたのかと自分に腹が立って、やり場のない怒りに周りが見えていなかった。
ロビーが騒がしくなり、やっと登場かと気合を入れた私は、受付から出てツカツカとヒールを鳴らしあの男の前に立った。
パチーンと整った顔の頬を平手打ちする。