溺愛までノンストップ〜社長の包囲網から逃げられません〜
「どうしてそんな勝手な事をするのよ」
繋いでいた手を振り払い、鞄から携帯をだして家に電話をかけた。
「もしもし、お母さん。どうして私の荷物を勝手に緒方さんに預けるのよ」
『麗美、そんなに怒鳴らないで…聖夜さんが是非にって言ってくださってね…お家を売らなくてもよくなったのよ。お父さんもお母さんも感謝しているって伝えてね。麗美も聖夜さんと仲良く暮らしなさい。こっちは、2人の都合に合わせるから詳しい事が決まったらすぐに連絡するのよ。じゃあね」
一方的に話され、通話が切れた。
興奮する母の話し声が筒抜けだったようで、男は笑っているが、緒方さんは男を見つめ何か言いた気だった。
私は、2人を交互に睨みつける。
「どう言う事?」
「詳しい事は、社長からお聞きください。私はこれで失礼致します。桐谷さん、明日は社長と一緒にご出勤で構いませんよ。では、おやすみなさいませ」
一礼した後で、長い廊下を玄関に向かって歩いて行った。
「チッ、逃げたな」
「さぁ、説明してもらいましょうか?」
背を向け、廊下の突き当たりにあるドアを開け入って行く男の後を追った。
「急かすな…」
広いリビングの中央に鎮座するソファ。
その1人がけ用のソファにスーツの上着を放り投げてネクタイを緩めた男は、3人がけのソファの中央にドサっと座った。
そして、手のひらで横に座るようにとソファを叩いていた。
今日1日で、手を繋ぐのが当たり前になってしまっていた私は、麻痺していたのかもしれない。
考えもなしに男の横に座っていた。
膝の上に置いた手を男は優しく握ってくる。
「麗美、全てはお前の早とちりから始まったんだ」
意味がわからくて、首を傾げると男は優しく笑った。
「桐谷家は、祖父にお金を借りていたのは知っているな⁈だが、そのお金は祖父にしたら命の恩人にあげたつもりでいたんだ。いらないと言っても納得されない君のおじいさんの顔を立てて、返済を受ける事にした。が、だ、そのお金は孫の麗美の名前で貯金されていた。うちの祖父が亡くなったら桐谷家からの返済はもう、受け取るなと言われていた」
一言、一言聞き漏らさないように頷く。
「残りの3000万円は返済しなくていいと連絡しても、君のお父さんが頷かなった。今までのお金を麗美名義で貯金がしてあると話すとお父さんは驚いていたよ」