溺愛までノンストップ〜社長の包囲網から逃げられません〜
秘書が電話をかけ終わり、男に「30分だけです」と告げた。
「ついてこい」
それから、有無も言わせてもらえないまま今現在、なぜだか社長室で2人きりでいる。
社長室に相応しい高級革張りのソファに座っているというのに、座り心地を堪能する余裕もなく、何を言われるのだろうかと緊張で喉が渇いてしまう。
目の前の男は、何を考えているかわからない表情をして、1人がけのソファで片肘をついた手のひらに頬を乗せ、長い足を組んだ腿の辺りをトントンとリズムよく人差し指で叩きながらこちらをずっと見ている。
その視線に居た堪れなく、私は男の首から下にかけて視線を彷徨わせながら、ゴツゴツした男性の手とは違うスッと長い指に視線が向いた。
ロビーで感じた時よりも一層、その指に触れられたいと煩悩する自分を戒め、首を左右に振り、振り払っていた様子を男が楽しげに見ていた事は気がついていなかった。
社長室をノックする音にビクッと肩が揺れる。
上司が呼び出されたのではないかと思い、首をすくめた。
「フッ…どうぞ」
そんな私をバカにしたように鼻先で笑った男は、社長らしく堂々とした声で答える。
「失礼します」
ドアを開け入って来たのは、先ほどの秘書の男性で、来客用に出すであろう高級そうな珈琲カップをテーブルの上に置いていく。
「手短かにお願いいたします」
私をチラッと見るも、秘書の男性は淡々と告げる様子に、男は『わかった』というように頷いていた。
「会議室でお待ちしています」
そう言ってお辞儀をすると、ドアを閉め出て行った秘書になのか、私になのか、時間になのかわからないが大きな舌打ちをした男は、足を組んだまま少し前のめりになり、今度は指を組んで膝の上に手を置いた。
「桐谷さん…」
「は、はい」
喉が渇いていた為、突然の事に上擦る声が恥ずかしい。
「桐谷家が祖父に借りていたお金の件だが、返さなくてもいい」
「本当ですか⁈」
「公衆の面前で頬を叩いた償いをしてもらう。それが条件だ」
「…あの場で叩いた事は反省しています。償いと言うのは何でしょう?」
「死ぬまで僕に尽くして貰おうか⁈」
不敵に笑った男に殺意が湧いた。
「私にあなたの奴隷にでもなれって言うの?」
「そうだなぁ…今日から俺の奴隷になってもらおう。お前に3000万の価値があるか証明してみせろよ」