溺愛までノンストップ〜社長の包囲網から逃げられません〜
色気を含んだ声と、妖しく惹きつけられる悪魔のような微笑みに、胸がキュンと高鳴った。
ドキドキしている間に、男は出て行き社長室には私1人きり…
脳内でリピートする男の声
いい子で待ってろよ…麗美
麗美
レミ
れみ
恋人を呼ぶように甘く名前を呼ばれた事に
うそ、なんなの?
熱くなる頬を両手で押さえ、声にならない声を出して叫んでいた。
喉だけじゃなく、カラカラに乾いた口の中をとりあえず潤したくて、テーブルに置かれたコーヒーを飲んだ。
飲みやすい熱さだったコーヒーだが、風味を味わう余裕もなく一気にカップの中を空にした。
その後、どうやって受付に戻って来たのか覚えていないまま、午前の業務が終わろうとした時、男は秘書を連れて重役員専用エレベーターからロビーに出て来た。
社長室での事を思い出しながら、男に気づかれないように見ていたら、一瞬だけ、こちらに視線を向けた気がしたが気の所為だったのだろう…
男は秘書と話しをしながらロビーを通り過ぎ、外で待機している黒塗りの高級車の後部座席に消えた。
お昼休憩に入る為の受付業務を引き継いでいる間に、外いた高級車はいなくなっていた。
ホッとしたような残念なような不思議な気持ちに、訳が分からなくなっていると、目の前に立つ男性に声をかけられた。
「桐谷さん、午後からの業務は別の場所になりますのでついて来てください」
その人は、男と高級車に乗って行ったと思っていた秘書の方だった。
「…えっ、やっぱり首ですか?」
その声は私じゃなく、同僚の受付嬢。
私の親友でもある天海 ひかるだった。
「…いいえ、部署を異動して頂きます。流石に大勢の目の前であれだけの事をされて今の職場に居られるのは、他の役員の目もありますから社長の立場上、お咎めなしという訳にはいきません」
「…やっぱり、そうですよね」
シュンとしながら、やってしまった事の後悔と反省。
もっと、場所を選ぶべきだった。
こんな状況になっていても、あの、整ったイケメン面を引っ叩いてやるって気持ちが変わらない事に苦笑い
する私の横で、ひかるが私の代わりに確認している。
「首にはならないという事ですよね」
「はい」
「よかったわね…麗美」
よかったのか悪かったのか⁈
異動する職場がどこになるのか不安が過ぎっていた。