溺愛までノンストップ〜社長の包囲網から逃げられません〜
「そのまま、ついて来てください」
こちらの返事も聞かずにさっさと背を向けて歩き出す秘書さん。
こちらもイケメンなのに、冷たい印象が苦手なタイプだと心でぼやきながら秘書さんの背を追いかけた。
数歩歩いてから、ひかるに何も言わないで来たと振り返り胸の前で小さく手を振る。
ひかるは、苦笑しながら手を振り返してくれた。
その間も、秘書さんは少しも待ってくれない。
小走りで追いかけ、待機していたエレベーターに向かった。
上昇する密室の中で、緊張でドキドキしていたら斜め前にいた秘書さんが突然振り返る。
頭上からヒールのつま先まで見下ろす視線が、小馬鹿にされているようで気分が悪い。
社長に手を挙げた私を快く思っていないのが態度からわかるだけに、これ以上印象を悪くしたくないと咄嗟に思い笑顔を貼り付けて身構えた。
「桐谷さん」
「はい」
「自己紹介がまだでしたね。私は、社長秘書の緒方と申します。今後、何かと接する機会が増えると思います。自己解決せずになんでもご相談ください」
「…はい。わかりました」
こちらが笑顔を向けているというのに、緒方さんは無表情のまま淡々と話す姿は、心のない人形のようだ。
連れて行かれた部屋には、私が着ている与えられた仕事着とは違い華やかなスーツ姿の女性達と、社員達が着ているビジネススーツとはどこか違う濃紺のスーツをビシッと着こなした男性が1人がこちらを見た。
「桐谷さんだね」
「私は、秘書室長の高橋です」
「…はい」
「急な異動ですが、君は緒方君のサポートに回る事になっています。ここでの業務はあまりないと思いますが、これからよろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
室内いる人達、1人1人に視線を合わせた後、深々と頭を下げた。
表情と雰囲気から歓迎されていないとわかったが、私は3000万円を返済しなければならない。
頑張ってやると意気込んだ。
「これで、ご挨拶は終わりましたね。では、皆さん彼女と仲良くお願いします」
保護者のような口ぶりに、女性達はキョトンとしているのに、まるで気にもならない素ぶりで私に目配せして室内から廊下へと促す。
そして、私が出た後ドアノブに手をかけ室内を振り返える。
「首になりたくなければ、余計な気を回さない事をお勧めします」