不埒な専務はおねだーりん
おねだり1:秘書になってくれないか?

「かずさ、喜べ。お前が探していた転職先を用意してやったぞ」

「は?」

階段から足を踏み外して大怪我をしたと聞いて、取るものもとりあえず病院にやってきた妹に対して、お兄ちゃんは感謝の言葉ひとつ掛けてはくれなかった。

それどころか横柄な態度で転職先を用意してやったとのたまう、その心は一体……?

何が飛び出してくるのやらとおっかなびっくり身構えていると、お兄ちゃんは5月に吹くそよ風のような爽やかさで言い放った。

「明日から、ちょっと俺の代わりに働いてこい」

「はああああ!?」

私はここが病院だということも忘れ、素っ頓狂な声を上げてしまった。

転職先を探していたのは事実だが、お兄ちゃんの代わりなんて無理に決まってる。

今でこそ左手右足をギブスで固定された情けない姿の我が兄、遼平だが、通常時はこう見えても日本有数の不動産会社“宇田川不動産”の専務秘書として働いているのだ。

口も性格も悪いお兄ちゃんだが頭脳だけは自他ともに認める出来なだけに、なぜそのおつむが私にも遺伝しなかったのか心底悔やまれる。


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