不埒な専務はおねだーりん

(“行けばわかる”ってそういう意味だったのか……)

つまり、私の仕事は篤典さんにお目付役ってこと?

(そりゃあ、篤典さんと付き合いの長い私なら何の気兼ねもなく接することができるでしょうけどね……)

粗相をしたらと怯えたり、逆に色目を使ったりということもなく、さぞかし安心でしょう?

……単にそれが理由で雇われたのは面白くない。

秘書といえばオフィスレディにとっては花形職業である。

代理の秘書を募集すれば希望者が殺到するだろうに、私でなくとも他に適任がいたのではなかろうかと複雑な思いになる。

せめてお給料分は働なくては妙な責任感が芽生え、任された書類を携えて意気揚々と執務室の扉をノックする。

「専務、失礼します」

どうぞと入室を許可され執務室に足を踏み入れると、篤典さんはオフィスチェアではなく来客用のソファに座っていた。

「一体……何をして……」

応接用の光沢のあるテーブルの上には、白黒両面の石がいくつも散らばっていた。

「かずさはオセロ得意だよね?」

「え?まあ、それなりに……」

私の認識が正しければ、今は絶賛仕事中の時間のはずである。

……ハウトゥー本片手にオセロの盤面に向かっているのは間違いだ。

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