不埒な専務はおねだーりん
「上に泊まっている常連さんが大のオセロ好きでさ。対戦したんだけどちっとも勝てないんだ。ちょっと練習に付き合ってくれるかな?」
ムムムと顔をしかめながら、一生懸命盤面に向かう篤典さんを見て思わず笑みが零れる。
負けず嫌いなのはいいですけど、ほどほどにしてくださいね?
「……少しだけですよ?」
持ってきた書類に取り掛かってもらいたいのはやまやまだが、相手がスイートルームに泊まる常連客ならば仕方がない。
持ってきた書類をデスクに置くと、篤典さんの相手をするべくソファに座る。
宇田川城上層部にある一泊ウン十万もするホテルに泊まるのはもれなく国内外の富裕層の方々である。
総支配人として彼らをもてなすのは至極当然のことだ。
格式と伝統のあるホテルがいくつもある日本において、あえて宇田川城に泊まるということは、宇田川家のひとり息子に会いに来ているようなものだ。
しかし、宇田川不動産の御曹司という肩書は彼の魅力のひとつに過ぎない。
誰にも物怖じせず、人懐こい篤典さんには、誰もが一目で好意を抱く。
何を考えているのか全く予想がつかず、振り回されることもしばしばだけど。
それでも何となく目が離せないのは、彼の身の内からにじみ出る圧倒的なパワーに魅了されてしまうから。
(とんでもなくラッキーなんだよなあ……)
篤典さんから猫可愛がりされていて、なおかつ秘書として働いているという事実。
私はオセロに興じながらしみじみと己の幸運を振り返るのだった。