不埒な専務はおねだーりん
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「あーあ……。また負けた!!かずさは強いなあ……」
「ここに置いちゃうと、後からつかえちゃいますよ。置くならこっちに置いた方が角も取れますし……」
「ふんふん。なるほど……」
篤典さんはふむふむと頷くと、何かを確かめるように石を右へ左へと動かした。
人に教えを請う素直さがある分、飲み込みが早い。
最初は大差をつけて勝っていたけれど、そろそろ負けが近づいてきそうだ。
しかし、またなぜ私はオセロなんかしているのだろう……。
ちょっと言ったにもかかわらず、オセロを始めてから優に3時間は経過していた。
「あの……お仕事は?」
デスクの上に置いたまま放置されている書類の存在がズドンと両肩に重くのしかかってくる。
急ぎと言われたものだけでも片づけてもらわないと、私が雇われた意味がない。
「仕事……?」
仕事の話をしだすと篤典さんは急にとぼけだし、下手くそな口笛まで吹き出した。
(誤魔化されないんだから……!!)
恨めしげにジィッと睨むとまずいと思ったのか、たった今思い出したように拳を打った。
「ああ!!仕事ね。後でやるよ」
後でって……こんなに一杯あるのに!?
「さあ、もう一回だ!!」
再戦を申し込んできた篤典さんを見て、頭が痛くなってくる。
これ以上、彼のペースに巻き込まれると危険だ。
常識に捕らわれない自由な発想は美点ではあるが、勤め人としての責任感があるのかどうかは、別問題である。