不埒な専務はおねだーりん

面会時間の終了に合わせて病室を出ると、あれほど強かった日差しが少しばかり陰りを見せていて、過ごしやすい天気になっていた。

よく考えたら篤典さんとふたりでどこかに出かけるのは初めてのことだ。

それがお兄ちゃんのお見舞いだなんて、皮肉がきいている。

「なかなか元気そうだったね」

「そうですね」

(お兄ちゃんってば……)

お礼もろくに言わずにお見舞いにもらったメロンを完食したかと思えば、“次はマンゴーがいい”なんて、堂々とたかり宣言である。

弱っているお兄ちゃんを目に焼き付けるという目的を果たせたかどうかは、最後まで分からないのであった。

「かずさ、折角外に出てきたし一緒に食事に行かないか?」

「すみません。今日は母が待っているので」

「つれないねえ……」

母が待っているというのは嘘ではない。

ただ、篤典さんと一緒に食事に行くとなると、それは間違いなくお値段の張る高級店なので気が引けるといいますか……。



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