不埒な専務はおねだーりん
「かずさは遼平とハグするのかい?」
「しませんけど……」
お兄ちゃんとハグだなんて想像しただけで、うええっと吐き気がこみ上げてくる。
「つまり、そういうことさ」
「はあ……」
「僕はね。かずさが世界で一番大好きなんだよ」
「あ、ありがとうございます……」
結局、“そういうこと”がどういうことだかさっぱり分からなかったけど、“大好き”と言われて嬉しくないはずがない。
「ははは。その様子だと信じてないな?」
不機嫌になった子供をあやすようにわしわしと頭を撫でられると、やっぱりからかわれていたんだとやさぐれたくなる。
「それじゃあ、明日の朝7時に迎えに来るからね」
篤典さんは爽やかさ100パーセントの微笑みで言うと、チュッと頬にキスを残して帰っていったのだった。
(び、びび、びっくりした!!)
不意打ちのようなほっぺチューの効果は絶大だった。
びっくりしすぎて迎えに来ると宣言されたことが、どこかへ吹っ飛んでいってしまった。
いくら海外では挨拶みたいなものでも、日本ではキスとは友達以上の親密な関係を表す。
(妹じゃなければ……何なの?)
キスをされた頬が熱くなっていく。
(やだ……っ……)
私ってば……うっかり勘違いしそうになっている?