不埒な専務はおねだーりん
おねだり3:おねだりをきいてくれないか?
「ねえ、かずさ?篤典坊ちゃんにご迷惑おかけしてない?」
「またその話?」
毎朝、耳にタコが出来そうなほど同じ話を聞かされるとさすがにげんなりしてくる。
私はお母さんの長い話が始まる前に、おかわりと言ってお椀を差し出した。
……私が篤典さんの秘書になってから早一週間が過ぎようとしていた。
お母さんってば私が秘書になったのが余程心配なのか毎朝毎朝、性懲りもなく、篤典さんに迷惑を掛けていないのか確認してくるのだ。
「いいこと、かずさ。私達一家が生活できるのは、ひとえに宇田川家のおかげなのよ?くれぐれも篤典坊ちゃんにご迷惑がかかるようなことはしないようにね?」
「はあーい……」
……それを言うなら入院したお兄ちゃんの方に先に言って欲しい。
我が家にとって宇田川家は神にも近い存在だ。
いるかどうかもわからない神より、道路と塀を隔てた向こう側にいる宇田川家。
(迷惑なんて掛けてないわよ……)
いや、この場合。
迷惑を被っているのは逆に私の方ではないのか?
腕を伸ばしてご飯をたらふく盛ったお椀を母から返してもらうと、英気を養うようにたっぷり胃に流しこんで仕事に備えるのだった。