不埒な専務はおねだーりん
「じゃあ、これなら?」
篤典さんはローズピンクの小瓶を小さく振った。
それくらいなら大丈夫かと思って頷けば、キュポンっと音が鳴り蓋が開けられる。
篤典さんは私の左手を取ると、刷毛で爪をひとつずつ塗っていった。
「一度やってみたかったんだよね~」
本来なら奉仕される側の人間であるはずなのに、彼は実に楽しそうにふんふんと節をつけながらマニキュアを施していく。
「楽しいですか?」
「楽しいよ」
(綺麗だな……)
篤典さんの指が私の爪を絡めとる様子に見惚れてしまっていることに気が付き、慌てて正気に返る。
「仕事を始めてからは、本宅の方にはめっきり帰らなくなったからね。こうして気軽にかずさと話すことができて嬉しいんだ。まあ、離れている間も遼平から色々と話は聞いていたけどね」
……そんなこと言われたら余計に逆らえない。
私は篤典さんの手によって爪が塗られていくのをただ黙って見ているほかなかった。