不埒な専務はおねだーりん

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「あら、可愛いネイル」

ポニーテールと眼鏡に続き、両手にネイルを施されて執務室から戻ってきても浜井さんはさして驚かなかった。

「専務がやったの?器用ね~」

篤典さんは手先の器用さは折り紙付きである。

執務室に飾ってあったボトルシップはすべて彼のお手製である。

……仕事の合間の休憩時間に作ったにしてはいやにの精巧すぎけど。

「どうしていつもなんだかんだ専務のいいなりになってしまうのでしょうか……」

処理済みの書類を浜井さんに渡しながら、つい愚痴を零してしまう。

ダメだダメだと口で言っても、最後には篤典さんの思惑通りに動かされているような気がしてならない。

ポニテ眼鏡に始まり、ノースリーブ着用、ハイヒール装着、語尾を変えてくれってのもあったな。

この一週間で大小様々なおねだりをされたが、そのどれも業務に関係ないことばかり。

気を許しているといえば聞こえはいいが、単にからかいがいのある私で弄んでいるだけだ。

それとも、私の意思って豆腐よりも脆いのかしら……?

「ドア・イン・ザ・フェイスって知ってる?」

浜井さんの口から聞きなれない単語が飛び出してきて、つい首を横に振ってしまう。横文字は大の苦手だ。

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