不埒な専務はおねだーりん
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浜井さんのおかげで篤典さんの交渉術の種がとうとう判明したわけだが、“お兄ちゃんに言いつけてやる!!”という魔法の呪文を唱える機会はなかなか訪れなかった。
……それもそのはず。
あの優しい篤典さんが、私が激しい拒絶反応を起こすような手に負えないおねだりをするはずがなく。
こちらの性格や趣味嗜好を熟知しているだけあって、ギリギリ許せるかな?というラインを正確に当てにきていたからだ。
私も私でポニーテール、眼鏡、マニキュアぐらいの実害のない範囲でなら、可愛らしいおねだりを聞くのも悪くないと思い始めていて。
結局、私も彼に対しては甘くなってしまうのである。こればかりは篤典さんを責められない。
そうやって楽観的に構えて公私混同、仲良しこよしの関係でいたばっかりに、篤典さんに多大な迷惑を掛ける事件が起こってしまったのである。