不埒な専務はおねだーりん
「そうか、遼平にバレちゃったか。残念だね」
お兄ちゃんに叱られた翌日、執務室に入室するなり事の経緯を説明すると、篤典さんは至極残念そうにため息をついたのだった。
「だからもう、篤典さんのおねだりは聞いてあげられないんです……」
だから、これからはおねだりなしでも仕事してくださいませんか?と交渉しようとしたところ、篤典さんがオフィスチェアからおもむろに立ち上がった。
「本当は徐々に慣らすつもりだったけれど仕方ないね」
ピカピカの革靴が上等な絨毯を踏みしめながら一歩ずつ近づいてきて、私の目の前でピタリと止まる。
「これでおねだりは最後にするよ」
(最後って……どういう意味……?)
そう尋ねる前に篤典さんは私の顔を両手で包み込み、グイっと上に持ち上げたのだった。
「キスをしてくれないか?」
……それは、これまで見たことのないほどの極上の笑みだった。