不埒な専務はおねだーりん
「もうかずさの言い訳は聞き飽きたよ……」
篤典さんが私に甘えるようにコツンと額を肩口にあててもたれかかってくる。
「せ、専務……?」
私は床にしりもちをつきながら、どぎまぎするのだった。
「ふたりきりの時は“専務”ではなく、昔みたいに名前で呼んで欲しい。かずさの前では普通の男でいたいんだ」
篤典さんってば耳まで真っ赤になっている。
もしかして……照れている?
気障なセリフもとんでもない変態発言も威風堂々と言い放つのに意外過ぎる反応である。
「おねだり……ですか?」
「違う」
篤典さんはそう言うと、自嘲気味にそっと呟くのだった。
「君に惚れる男の浅はかな願いさ。愚かだと笑ってくれ」
(笑えない……よ……)
誰もが羨む極上の男性が、私に惚れていると本気で言っているのだ。
「ねえ、かずさ。正直に答えて欲しいんだ。僕に男としての魅力は感じない?遼平の友人以上の気持ちは本当に抱けないのかい?」
篤典さんがあまりに苦しそうに顔を歪めているから、私だって胸が苦しくなってくる。
……もう、自分を誤魔化せない。ううん、誤魔化したくない。
「篤典さんのことを……ただの知り合いだと思ったことなんてありません……」
知り合いよりも、もっと大切で、愛おしい。
……初恋の人。
初めて篤典さんに出会ってから20年が経つというのに。
未だに彼以上の人に巡り合うこと叶わず、幼き日の約束が一等星のごとく煌いている。