不埒な専務はおねだーりん
「おねだりを聞くのはお兄ちゃんに禁止されてますから……」
あのお兄ちゃんのことだから、何がどう耳に入るかわかったもんじゃない。
「頑張った上司を労わるのは良いんじゃないか?」
篤典さんは悪戯を思いついた子供のように、無邪気にウインクをした。
「これならおねだりにならないから問題ないよ」
えっへんと自信満々で言い切られると、あははと乾いた笑いしか出てこない。
「ただし、僕が受け取るのは憎らしいほど蠱惑的な君の唇だけだけどね」
篤典さんはそう言ってトントンと自分の唇を示した。
つまりは私からキスをしろってこと!?
それは世間一般では屁理屈って言うんじゃないかな!?
大胆な提案に頬を染め、思わず絶句する。
「照れないで、かずさ」
とびっきりチャーミングな笑顔でそう言われて、ゴクンと唾を飲み込んだ。
……お兄ちゃんが本当は何を一番懸念していたのか、私はこの時初めて悟った。
「君には僕の秘書としてどうあるべきかをたっぷりと教えてあげよう」
彼の誘惑に抗う術を持たない私は無防備そのもの。
欲しいものを欲しいと口にしただけて、オフィスチェアに座ったまま私を意のままに操るのだった。
「はい……篤典さん……」
私に出来るのは素直に教えを乞うことだけだ。
ここがオフィスということも忘れて、キスに……篤典さんに溺れていく。