不埒な専務はおねだーりん
おねだり5:部屋に来てくれないか?
「お前、篤典のおねだりとやらは本当にきいてないんだろうな?」
お兄ちゃんが不意打ちのように尋ねたせいで、花瓶をうっかり落としそうになって本気で焦る。
ギクンと肩が震えたのは心当たりがないわけではないからだ。
「そんなわけないじゃないでしょう?やだな~もう!!お兄ちゃんは本当に疑い深いんだから……」
「知ってるか?お前は嘘をついている時は眉毛がピクピク動くんだよ」
(眉毛!?)
自分も気が付かない無意識の癖を指摘されて、思わず眉毛を押さえる。
お兄ちゃんは読みかけの本をパタンと閉じると、再度私の顔をマジマジと見て言った。
「お前、本当に何もしてないんだろうな?」
「わ、私……そろそろ帰るね!!」
これ以上詮索されてはまずいと、病室から逃げるように退散する。
(あ……危なかった!!)
妙なところで鋭いんだよなあ……うちのお兄ちゃんは。
目は口ほどにものを言うという言葉があるが、私の場合は眉毛だったらしい。
おしゃべりな眉毛をこれでもかとマッサージして懲らしめる。
これからお兄ちゃんに会う時は、眉毛をさらすことを極力避けねばなるまい。
おねだり以上に後ろめたいことをしているなんて言えるはずがないのだから。