不埒な専務はおねだーりん

いつまでも突っ立ていても仕方ないと意を決して、宇田川城に乗り込む。

エントリーゲートをパスし、オフィスフロア専用エレベーターで向かうのは宇田川タワーヒルズ管理・運営部のオフィスがある27階だ。

高速エレベーターに乗り込み、フロア入口に構えてあった受付用の電話を手に取り、目的の人物を呼び出し待つこと数分。

「あなたがかずさちゃん?」

お兄ちゃんの同僚と思しき女性がセキュリティエリアの奥から出てくると、私は深々とお辞儀をした。

「今日からお世話になります」

「よかったあっ!!私に遼平先輩の代わりなんてとても無理だもの~!!」

二パッっと大きく笑うと八重歯が見えるコロコロとよく笑う女性だ。

いかにも仕事の出来そうなベージュのセットアップスーツと華やかなフリルのブラウスを華麗に着こなすこの御方もきっとお兄ちゃんに負けず劣らず聡明なんだろう。

「この度は兄の遼平がとんだご迷惑をおかけしてしまって……。本当に申し訳ありません」

「そんなにかしこまらなくてもいいのよ。さっそくフロアを案内するね」

そう言うとお兄ちゃんの同僚改め、浜井さんは管理・運営業務に関する説明を始めた。

フロア内には常時30人程の社員が働いており、宇田川城における各種イベントを企画したり、テナント側との交渉や広報活動を行っているそうだ。

宇田川城は宇田川不動産の顔としての役割を担っていることもあり、その動向は常に注目の的になっていると言っていい。

流行の最先端を行くビルとして、ブランドイメージを損なわないように苦労しているのだとか。

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