不埒な専務はおねだーりん
「宇田川タワーヒルズは誰が何と言おうと世界一のビルですよ!!」
私はデスクにバンっと手をついて、篤典さんの代わりに声を荒らげて力説した。
(あったまきちゃう!!)
宇田川城にやってくるお客さんがいつも笑顔で帰っていくのは、篤典さんがそうあって欲しいと願って努力した結果だ。
それを何も知らない本社の役員にどうこう言われる筋合いはない。
「ありがとう、かずさ。そうさ!!僕の城は世界一のビルさ!!」
私の叱咤激励がきいたのか篤典さんは元気を取り戻し、朗らかに笑うのだった。
「いいえ。誰だって弱気になる時はありますから」
いつも自信満々で我が道を突き進む篤典さんだけれど、判断に迷うことだってあるはずだ。
大きな裁量を持っているということはそれだけ責任が大きいということに他ならない。
「僕の様子がおかしいことに気が付くなんて君は……今や立派な秘書だね」
「褒めないでください……これでも必死なんです……」
別れの日がやってくる前に何か残しておかなければと不安に襲われるのは、自分に自信がない証拠だ。褒められるなんてもってのほかだ。
「……寂しいな」
篤典さんはそう言うと目を細めて、眩しそうに私を見つめるのだった。
「籠の中に入れておくには、ここは少し窮屈みたいだ」
篤典さんの笑みが陰っていくのを見て、またしても反射的に口にする。
「篤典さんほど自由にさせてくれる飼い主はきっと他にいませんよ!!」
籠の中の鳥が居心地の良さに負け自由を手放し自ら捕らわれにやってくる可能性は、決してゼロではない。