不埒な専務はおねだーりん

(私ってば……!!)

油断したばかりに自分でも意識せずに“篤典さん”と名前で呼んでしまっていた。

気を取り直すようにコホンと咳ばらいをすると、クックックと押し殺したように笑われる。

「そうだね。僕みたいな飼い主は他にいないかもしれないな」

あろうことか篤典さんを飼い主に例えるなんて、これでは褒めているのか貶しているのかわかりゃしない。

「失礼しました。秘書室に戻ります」

笑われたのが恥ずかしくなってきて一礼して執務室から退散しようとすると、篤典さんにスーツの端を掴まれる。

「か~ず~さ~」

そうやって名前を呼ばれて引き留められるのは、一度や二度のことではない。

“労り”という名の甘い誘惑の始まりはいつも篤典さんの猫撫で声からだ。

……しかし、今日はいつもと様子が違った。

「今夜、部屋に来てくれないか?」

「え……?」

部屋って……。篤典さんのマンション?

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