不埒な専務はおねだーりん
(……本当にいいのかな?)
もしこのまま篤典さんのマンションで一夜を過ごせば、もう二度と……同じ関係には戻れない。
“幼馴染の女の子”として今まで築いてきた特別な地位を、あっさりと手放すことができるのか。
お金持ちの娘や絶世の美女ならいざ知らず、私は単なる使用人の娘である。
……篤典さんにとって傍に置いておくメリットは何もない。
“恋人”になって捨てられるくらいなら、このまま“幼馴染の女の子”を続ける方がよっぽどましなのではないか。
(私は……ずるい……)
……本当にずるい。
この期に及んでまだ迷って疑っている。
「すみません……。今夜は友人と食事をする予定があって……」
篤典さんの胸に素直に飛び込めないことが、申し訳なくて何度も何度も謝罪する。
結局、私にはまだ何の覚悟も出来ていないということをただ思い知らされた。
私はこの日初めて。
……篤典さんに嘘をついた。