不埒な専務はおねだーりん
「ここが、あなたの働く秘書室よ」
従業員のいたフロアから一階上の28階、オフィスフロア最上階が専務の執務室および秘書室となっていた。
秘書室に通されるとピカピカの真新しいデスクが一組用意されていて、否応がなく緊張が高まる。
「専務にご挨拶しましょうか。朝から首を長くしてお待ちだったのよ」
お尻がムズムズするような少しの不安と、心がふわふわと揺れる微かな期待が入り混じる中、浜井さんと共に執務室へと向かう。
(うう……。本当に大丈夫かな……)
“かずさならあいつとも上手くやれるだろう?”
気楽なお兄ちゃんそう言っていたけれど、どこまでも不安がつき纏ってくる。
箪笥の奥に眠っていたリクルートスーツを引っ張り出し、まともな挨拶もできないまま元職場に別れを告げ、その上息つく間もなく初出勤である。
元職場が宇田川不動産のグループ企業だったから良かったものの、普通は即日退職なんてありえない。
(本当に無茶苦茶やるんだから……)
大学生の時にお兄ちゃんに命令されて取った秘書資格がまさかこんなところ役に立つとは思わなかった。
頭の中で今回の主犯がしてやったりと憎らしくピースサインをしている。