不埒な専務はおねだーりん
目を固く瞑り布団をかぶって孤独に耐えていると、ふいに何かがコンコンとベランダの窓を叩いた。
……風の音とは違う、明確な意思を持って鳴らされている異質な音だった。
(やだ……!!)
枕もとの携帯をお守りのように抱え、警察に電話しようか隣人に助けを求めようか迷っていると、今度は男性特有の低い声が聞こえてくる。
「か~ず~さ~。開けてくれないか~」
……それは確かに聞き覚えのある声だった。
「篤典さん!?」
まさか!!とは思ってカーテンを開けると、頭に小枝や葉っぱをつけた篤典さんが
「どうして、こんなところから!?」
「あはは!!まるでロミオとジュリエットだよね。こっちの方が雰囲気出るかと思って。お隣さんに見つかるのも面倒だしね」
いくら他の人に見られると困るからって……ここ2階ですよ!?
宇田川家から社宅として提供されている2階建ての集合住宅の傍には、大きな桜の木が植えられていて、枝を掴めばベランダに侵入できないこともない。
……かつて我が家を襲った下着泥棒と同じ手順でなのが非常に残念なところではある。