不埒な専務はおねだーりん
おねだり7:僕の傍に一生いてくれないか?

「あ、ギブス取れたんだ?」

浜井さんに頼まれて、お見舞い金申請の手続きに必要な書類を取りに病院に行くと、お兄ちゃんの右腕を覆っていたギブスが跡形もなく消えていた。

「若いからその分回復も早いんだと」

お兄ちゃんは右手をグーパーと動かして、指と関節の動きを確かめていた。

まあ、いっぱい食べていっぱい寝てたからね……。

病人にあるまじきおかわりを要求して、看護師さんに怒られていたのも今となってはいい思い出である。

「来週には退院するからなー」

車椅子移動だったお兄ちゃんの部屋に松葉杖が置いてあったのはそういう理由らしい。

明日からリハビリも兼ねた歩行練習を始めるそうだ。

「入院生活にも飽きてきたところだしちょうど良かったぜ」

お兄ちゃんは大きく伸びをすると、ふあっと大きなあくびを噛み殺した。

……大人しくしていたのは最初の3日だけ。

ネットもないテレビもない仕事もない環境にすぐに退屈を持て余したお兄ちゃんは、やれ漫画を買ってこい、DVDを借りてこいだの、わがまま放題好き放題。

小間使いからやっと解放されるんだと思ったら、私こそ清々しい気持ちでいっぱいである。

< 79 / 90 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop