不埒な専務はおねだーりん
「専務、失礼します。鳥山さんがいらっしゃいました」
そう言って浜井さんが執務室の重厚な扉をノックすると、直ぐに返事があった。
執務室に入るようにジェスチャーをすると、浜井さんは秘書室に戻っていった。どうやら一緒についてくる気はないらしい。
緊張で強張る身体に鞭打って、素早く入室して腰を折り挨拶をする。
「本日からお世話になります。鳥山かずさです」
「久し振りだね、かずさ」
……笑顔が眩しいと感じたのは、光の加減のせいではない。
見惚れていたことがバレないようにそっと目を伏せる。
私は昔からこの人を見る度に性懲りもなく胸をときめかせてしまうのだ。もう半分、癖のようなもの。
天は二物を与えずというのは嘘だと思う。
…だって、篤典さんはどこをどう見ても完璧だった。
宇田川不動産の経営者一族である宇田川家の長男に生まれ、32歳という若さにして専務を務める彼――“宇田川篤典”はまさに神に愛された男そのものだった。
類稀なる高貴な家柄に生まれ、明晰な頭脳を持ち、アイドルやモデル顔負けの非の打ち所のない容姿まで備わっている篤典さんはさながらロマンス小説に出てくる貴公子のよう。
……しかして、その実態はというと。