不埒な専務はおねだーりん
「んで、お前はどうするんだ?」
書類の入った封筒を預かり中身を確認していると、お兄ちゃんが奥歯に物が挟まったような言い方で問いかける。
「どうするって……?」
「このまま篤典の秘書にでもなるか?」
お兄ちゃんはふんっと鼻を鳴らし、不満があることを隠そうともしなかった。
名実ともに篤典さんの右腕を務めるお兄ちゃんにしてみれば、私を雇い続けたところで役立たずが増えるだけで何のメリットもない。
“君が望むなら秘書としてこのまま宇田川不動産に勤務してもらいたい。もちろん、僕専属の秘書として……”
寝物語代わりに篤典さんから熱心に口説かれたが、私は直ぐに返事をすることが出来なかった。
コーヒーを淹れるぐらいしか取柄のない私に、秘書なんて大役は力不足だろう。
……それでもいいから篤典さんの秘書でいたい。
そう正直に口を開きかけて、やっぱりためらってしまう。
そんな私の迷いを見逃すようなお兄ちゃんではなかった。
「覚悟がないなら今すぐやめろ」
「……え?」
予想より斜め上の厳しい声が飛んできて面食らってしまった。