不埒な専務はおねだーりん
「宇田川家の総資産約5000億円、関連企業約200社、従業員約2万人。全部、篤典が受け継ぐ予定の財産だ。あのバカはあれでも跡取り息子だからな。好きという気持ちだけでやっていけるほど甘くないぞ。生半可な覚悟ならやめとけ」
自分でもサーっと血の気が引いていくのがわかった。
単純に秘書としての資質を問われているわけではないのは明らかである。
「ったく。ふたりして浮かれて花飛ばしやがって……。俺に気づかれないとでも思っていたのか?」
お兄ちゃんは不機嫌そうな顔で腕を組み私の反省を促した。
私と篤典さんの間に何が起こったのか完全に見抜かれている。
そして……すべて分かった上で反対しているのだ。
「お前にあいつの恋人なんて無理に決まってるだろう?傷が浅いうちにやめとけ。男なら他にいくらでもいるだろ」
秘書になれって言ったのはお兄ちゃんのくせに……!!
(何よ……勝手なことばかり言って……)
頭ごなしに否定されいくらか反発心も芽生えたが、お兄ちゃんの心配が分からないほど子供でもない。
悔しいがお兄ちゃんの言う通りだ。
最初から分かり切っていたことじゃない。
篤典さんがいくら私を好きだと言ってくれたって、周りがそれを許してくれるはずがないって……。
身分が違うってこと、分相応だってことをいい加減受け止めなきゃ。
「母さんには黙っといてやる」
駄目押しのようにお母さんのことまで、持ち出されてようやく踏ん切りがつく。
これで……諦められる……。