不埒な専務はおねだーりん

「や、だな……何言ってるの?最初からお兄ちゃんの代わりって話だったじゃない……」

とぼけるような愛想笑いでお兄ちゃんのわき腹にパンチをお見舞いしたのは精一杯の強がりだ。

「……お前は賢いな」

お兄ちゃんが言われると盛大な皮肉のように聞こえるんですけど?

「お大事に」

私はそう言うとピシャリと病室の扉を閉めたのだった。

(お兄ちゃんのバーカ……)

頭でっかちでちっとも乙女心が分かってないんだから。

(私、全然賢くないよ……)

本当に賢かったら、最初から篤典さんの手を取ったりなんかしなかった。

初恋を綺麗なままピカピカに磨いておけば、永遠に失うこともなかった。

そうしたら今頃こんなにボロボロに泣いたり、ぐずぐずと鼻水を垂らすこともなかったのに。

最初から最後まで間違いだらけだったけれど、唯一この恋心だけは本物だったと胸を張って言ってもいいかな。

篤典さんみたいな人と一瞬でも両想いになれたんだ。

……これ以上、多くを望んではいけない。

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