イジワルで優しい彼と再会したら
恭介の部屋で、なぜか恭介のベッドを占拠して座っている真琴は、
床にあぐらをかく恭介を見下ろしている。

(夕飯に呼ばれない限り、解放されないな)
恭介の母親は先ほど帰宅したばかりなので、呼ばれるまではもう少し時間があるだろう。

「もともと、廊下で見かけた時になぜか気になってたんだけど、
 委員会が一緒になって、余計に気になって。
 なんだか綺麗な顔してるし、なんか変な動きしてるときあるし。」

真琴は両手でベッドの縁を掴むようにして、前のめりになっている。

「隆一のこと、そんなに気に入ってるんだな。
 確かにいいやつだけど、モテるって話は特に聞いたことはな..」

「ほんとに!?」

(すげえ勢いだ…)
「う、うん、言っとくけど、本人が誰を好きとか、知らないからな。
 俺はお前が知りたいようなことは答えられねーぞ」

「好きな人がいるかどうかわからないのは仕方ないとして。
 普段の様子は?いつも委員会のときみたいに物静かで変な動きしてるの?」

「変な…確かにそうだけど、あー、あいつの部活、吹奏楽だろ。
 担当の楽器はトランペットらしいけど、練習の時、たまに指揮やるんだよ。それであの動きらしい」

真琴はベッドから降り、恭介の横に座ると、カバンからノートとペンケースを取り出した。

新品のノートの1ページ目に、何かを書き付けた。

(吹奏楽部
 指揮の癖
 トランペット担当)

「どうもありがとう」

真琴はにっこり笑った。
窓の外では、ちょうど夕焼け空が夜空に変わりそうだ。

「これからも、いろいろ、教えてね」

1階から、恭介の母が二人を呼ぶ声がした。

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