最後の恋のお相手は

④

「キララちゃん、ご指名やで」

ガールズバーは朝五時まで営業しているけれど、私の勤務時間は、十九時から終電間際。もうそろそろ今日の仕事も終わりに近づいた、二十三時半。まさかのお声がかかった。

「終電過ぎたら送りあるから、気にせず接客してな」

店長に言われ、笑顔でうなずいた。それにしても珍しい。私を指名してくれる常連さんは、私の勤務時間を知っているはずやのに……。

「キララちゃん」

私をみつけて手を振る男性。日に焼けた肌に、高級腕時計が光る。

「日向さん……」

まさか、ひとりでご来店とは！ 驚いて、その場に立ち尽くした。

「ほら、早く座って？」

白い、歯並びの良い歯を見せながら笑っている隣に慌てて座った。

「勤務時間、何時まで？」

「終電間際なんですが……大丈夫です！ 指名していただいて、ありがとうございます」

とりあえずのビールで乾杯をすると、目と目を合わせてニッコリと微笑んだ。

「今日はちょっと話したかっただけやから。これ、飲んだら帰るわ」

日向さんはそう言うと、茶色の紙袋を差し出して、私の耳元に唇を寄せた。

「夜の仕事は、辞めや」

そのひと言に、胸の鼓動が加速した。紙袋の上から中身に触れてみると、紙の塊が入っている感じがした。

もしかして、お金？

「日向さん、これは受け取れません」

「なんで？ 専門学校の金があったら、辞められるやろ？」

やっぱり、紙袋の中身は札束だ。おそらく、二百万円くらい入っているのだろう。そんな大金を、最近知り合った人から受け取れるはずがない。


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